会社に対する損害賠償請求とは
業務上のケガや病気に関して、労災保険の支給が受けられたとしても、その補償額が一般的に不十分であることが多いです。そして、事故が発生した原因について会社にも責任があると考える場合、会社に対しても損害賠償請求をするという選択肢があります。
たとえば、他の従業員の不注意が原因でケガを負った場合には、会社に対しても責任追及が可能です(民法715条)。
具体的には、他の従業員がフォークリフトで作業をしていたところ、そのフォークリフトに轢かれた場合、他の従業員が上から物を落としてそれにぶつかった場合などです。
このようなケースにおいては、会社の責任は比較的認められやすいといえます。
一方、自分一人で業務をしていた際にケガをした場合はどうでしょうか。
たとえば、プレス機で作業中に誤って手を挟んでしまったり、建設現場で足場の移動中に落下したりする場合などです。
この場合、会社が安全配慮義務を履行していたかを検討することとなります。
法律上、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とされています(労働契約法5条)。
会社側が「自分で勝手にケガしたんだろう」と言ってきたとしても、会社に安全配慮義務違反が認められれば、損害賠償を請求することができます。
以上の点は、業務上のケガだけでなく病気についても全く同様です。
同僚によるハラスメントによって精神障害を患った場合など、労災保険から支給される補償だけではなく、会社に対しても損害賠償を検討してもよいかもしれません。
ところで、実際に労災事故にあった際、会社に安全配慮義務違反を問えるかの判断は、簡単ではありません。
一言で安全配慮義務といっても、その内容はかなり抽象的で分かりづらく、「労働者の職種、業務内容、働く場所などの具体的な状況によって変わってくる」とされています。
そのため、ご自身で判断されることは適切とは言いがたく、専門家のアドバイスを受けた上で方針を決めるのがよいでしょう。
また、安全配慮義務違反が比較的認められやすいケースとしては、労働安全衛生法や同規則、ガイドラインといったルールの違反が認められる場合が挙げられます。
ただし、このような場合についても、膨大に存在する条文や文書から必要な情報を探し出すのは困難であり、やはり専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
その他、重大事故で労働基準監督署が災害調査を行い、その結果、法令違反があるとして是正勧告などを会社が受けた場合や、警察・検察が捜査をして会社や担当者が刑事処分を受けた場合は、高い確率で会社に対して安全配慮義務違反を問うことが可能です。
なお、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は、5年または10年です。
時効については、いつから5年(10年)を数え始めるのか、どちらが適用されるのかなど、民法改正との関係で細かいルールがあります。
会社に対して安全配慮義務違反を問えそうかご不明な方は、一度、ご相談ください。
損害賠償請求の流れ
会社に対して損害賠償請求が可能だと判断した場合、まずは資料を集めていただくことになります。
事故状況が分かる写真等の資料があればとても助かりますが、入手が困難な場合は、ひとまず事故状況が分かる資料はなくても構いません。
次に、労災保険関係の資料を取り寄せていただくことになります。
労基署に提出した資料や労基署が決定した内容については、当該労基署を管轄する「労働局」で「保有個人情報開示請求」という制度に基づいてコピーを入手することが可能です。
なお、労災の資料の入手には、申請してから1月ほどかかります。
こうした資料をもとに、事故状況と認定された後遺障害の内容を判断し、損害額を計算します。
その後、内容証明郵便で会社に通知書を送ります。
そのうえで交渉を重ね、話し合いで解決できなければ訴訟提起となります。
1 レビューに基づく